餓鬼
私が、小学5年生の頃だった。
学校から帰ると、玄関にランドセルを置いて、
すぐに遊びに行くつもりで声をかけた。
「ただいま〜」
ん?返事がない。
いつも居るはずの母の返事がない。
「どうしたんだろう」
ガラッと居間の引き戸を開けたとたん、信じられない光景を目にした。
居間には、変な生き物が居た。
身長50pくらいで、頭がとても大きく口には鋭い牙が2本生えている。
お腹は栄養失調のようにぷっくりでていて、服は着ていない。

そう、地獄絵などにかかれている「餓鬼」にそっくりなのだ。

そんな生き物が居間いっぱいにあふれかえっている。
「うぅぅあぁぁぁ〜」
声にならない声がでた。
慌ててドアを閉め、自分の部屋へ逃げようと階段を駆け上がった。
部屋に入ると、天井には無数の餓鬼が蝙蝠のようにぶら下がっていて、一斉に私を見た。
一匹の餓鬼が、私めがけて跳びかかってきた。
痛い!
頭をかじられた。
「ギャッ」
ひっつかんで床にたたきつけた。
−兄貴なら助けてくれる−
部屋を飛び出した私は、隣の兄の部屋を開けた。
その時、血しぶきが私の顔にかかった。
兄が朝着ていた服が、散乱していた。手や足、頭を口に銜えた餓鬼がいた。
餓鬼たちは、先に兄貴を襲ったのだ。
部屋をすぐ閉めて、階段を下りた。
−とにかくここから逃げなくては−
玄関から逃げようとしたが、餓鬼がいるのが見えたので、
仏間から離れにつづく、渡り廊下へ逃げようと考えた。
足音をたてないように、仏間へと入り込んだ。
がその時、私の足を何かが掴んだ。
餓鬼だ。
急いで仏間を抜け、離れの出入り口に向かおうとしたが、
あとからどんどん増えてくる餓鬼に引きずられて、その場に倒れてしまった。
全身に餓鬼が群がってくる。
−殺される−
そう考えたとき、父のゴルフクラブが、私の目に入った。
必死でゴルフクラブを手にすると、目くらめっぽう振り回した。
しかし、多勢に無勢、数には勝てない。
餓鬼には致命傷とはならないが、ゴルフクラブを振り回して後ずさりしながら、渡り廊下へ近づいた。
渡り廊下の角のところまで来ると、今まで群がっていた餓鬼が霧のように消えた。

「おい、飯が冷えるぞ」
父の声がした。
はっと我に返ると、私は居間に座っていた。
家族みんなの顔が揃っていた。死んだはずの兄もいた。

夢か現実か、まだ答えはでていない。