ハードディスク
コンピュータは正常に動いていますか?
コンピュータから変な音はしていませんか?
よーく耳を澄ましてみてください。
ほら、ハードディスクがあなたに語りかけていますよ。

あれは、11月のある日の事でした。
自室のコンピュータから変な音が聞こえてきました。

「シュルシュルシュル・・・」
普段のハードディスクの音とは明らかに違う音です。
「シュルシュルシュル・・・」
やっぱり変な音がします。
ハードディスクが壊れかけているのかも?と思い、
データなどが取り出せなくなる前に交換しようと
コンピュータショップへ走って80GBのハードディスクを購入し、
システムやデータの移行を済ませました。最後に再起動して
「さぁ、これで心配なく使えるようになるぞ」と意気込んでいると、
「シュルシュルシュル・・・」とまた交換前と同じ音が。

ケースを開けて異音の原因を探っていると、
「くっくっくっ」と、まるでのどの奥で笑うような音がします。
だんだん音が大きくなってきて、はっきりとその音が聞き取れるようになりました。
「くっくっくっ、交換なんてやっても無駄だよ」
「えっ?」私は耳を疑いました。
ハードディスクが私に話しかけている?!そんなばかな・・・
すぐに修理に出すと数日後、店から連絡がありました。
「お預かりして調べてみました。多少の埃はありましたのでクリーニングしましたが、
当店で作動させても異音も他の異常もありませんでした。
またお客様がおっしゃっていた人の声のような音は何もありませんでした。」


 私は店からコンピュータを引き取り、設置しなおしました。
どうしても今夜中に仕上げないといけない仕事があったのです。
恐る恐るコンピュータの電源を入れると、何事もなかったかのようないつもの音でした。
しかし、しばらくキーを叩いていると、突然画面がブラックアウトしました。
「モニターもとうとう逝ってしまったか」
と思っていると画面にうっすらと何かが映っています。
目を凝らすと、もやがかかったような中で何かが動いています。
だんだん、画像がはっきり見えるようになってきました。
武士が刀を振り回し、誰彼かまわず切りかかっている姿でした。
画面の隅で泣いている赤ん坊が見えました。

ハードディスクは狂ったようにすごい音を出しています。
「殺せ、殺せ、殺せ、みんな殺してしまえ」そう私には聞こえました。
皆殺しにした後、血だらけの抜き身の刀を下げた武士は画面から私に語りかけます。
「お前はたった今、人殺しをした」
「何を言ってる、私は画面で見ていたんだ。お前が殺したんだ」
「では周りをよく見てみろ」
すぐ横で、妻が血を流して倒れています。
あわてて抱き起こしましたが、既に息を引き取った後でした。
「はっはっはっ、言った通りであったろうが。お前が殺した。」
「何のことだ!お前なんか知らないし、俺は妻を殺した覚えなどない!」
「では、話してやろう。いずれ捕まる運命ならば」

武士の話はこうでした。
江戸末期に、勘定方(今の経理)の仕事をしていた私の先祖が、ある商人から借金をした。
期日までに返済ができそうになかった彼は、
期限の延長を願い出たが断られ、お金の返済を迫られた。
最後の手段で藩の金を着服する。もしもそれが明らかになったらどんな事が待っているか・・
必死の思いで商人の所に返済金を持って行った彼が目にしたものは、
商人と自分の妻との不義密通の現場だった。
怒りに任せた武士は刀を振り回し、商人の家族も奉公人も全て切り殺してしまった。
ただ一人を除いて。
そのただ一人の生き残りの子孫が私だと言うのです。
「あぁ、あの赤ん坊が俺の先祖なのか」
悟ったとたんにハードディスクが静かになり、コンピュータの電源が切れました。
次の瞬間、警察が家に踏み込んできました。

私は5年の刑期を終え、先日出所して来ました。
でも、まだ武士の怒りは解けていないようです。
この原稿を書いているコンピュータのハードディスクもあの時と同じ音を立てているのです。
「シュルシュルシュル・・・」