鏡 |
朝の身支度をしていると、ふっと誰かの視線に気が付きました。 私は一人住まいで、他には誰もいません。 あたりをキョロキョロ見廻しましたが、やはり何もありません。 あまり気にしすぎるのも良くないと思い直し、仕事に出かけました。 夜、帰ってからお風呂上りに髪を乾かしていると、やはり視線を感じます。 目には見えないけれど、何か嫌な感じがします。 そういうことが4日も続くと、 「最近はやりの盗聴器や盗撮器などが仕掛けられているのかもしれない」 と考えるようになりました。 翌日、専門業者にお願いし、部屋中を捜してもらいましたが、 そういう類のものは一つも出てきませんでした。 「ストーカー?」 頭にその言葉がよぎりました。 探偵を雇い、3日間張り込みをしてもらいました。 その結果、どこにもそんな不審人物はいませんでした。 しかし、家の中では相変わらず誰かの視線があるように思えて、 それがだんだんとひどくなっているようです。 家の中だけじゃなく、会社の洗面所でお化粧を直していると、 また誰かの視線を感じた気がして・・・。 急いで洗面所をでました。 街の中でもずっと誰かの視線を感じています。 「誰だろう?何だろう?」 視線を感じるときに必ずあるもの・・・、 考えてみると、ある共通点にハッとしました。 それは鏡なのです。 それに気がついた時、やはり私は鏡の前に立っていました。 その時です。 鏡の中の私の顔が、口元だけ“ニヤリ”と笑ったのです。 私は、今まで心に溜まったうっぷんを、 ずっと鏡の中の自分に聞かせていたのです。 その不満が鏡の中だけでは足りなくなってきたのでしょう。 さようなら、今までの私。 私は鏡の中の私と一体化して、私が私でなくなって、それも私なのだと・・・。 私は私であり続けたい。 |