私の千夜一夜物語 2002/05/11UP
「お母さん、お話しして」


昔の子供は早寝させられた。確か夜9時には布団に入っていたと思う。
いつまでも寝付けなかった日、ふすまから漏れてくる光の中で、私は弟にお話を作って聞かせた。
それはほとんどが稚拙な冒険物で、両手の指を使ったにわか仕立ての人形劇。
自分の指では足りなくなると、弟にも登場人物を作らせる。赤ん坊から、王様、騎士、天使まで、指はいろんな姿に見えた。幼かった頃の兄弟の図は照れくさいものだ。

子供が生まれると子守歌から始まり、絵本の読み聞かせもした。
もう自分である程度の漢字も読めるようになったので、途絶えていたが。

子供が風邪で熱を出した。昼間ずっと寝ていたので、まだ寝付けないようだ。
「お母さん、何かお話」
「えっ、お話?どんな?」
「何でもいい」

口をついて出てしまった。「じゃあ、○○ちゃんの冒険は?」
○○ちゃんの眼は見る見る輝いた。

冒険に行きたい○○ちゃんに、母親はおにぎりをいっぱい詰めたリュックを渡す。
歩いて山に登った○○ちゃんは途中アリさんやイモムシさん、カバさん・・いろんな生き物に出会いながら、海の水と川の水が混じり合うという「ふしぎな湖」を目指すのだ。
今夜は、川をさかのぼれない○○ちゃんに、鳥たちが空を飛ばせてあげるよと言う所まで話したが、観客は途中で寝てしまった。

主人公が家に帰り着いて「ただいま!」で終わろうと思っていたのだが・・・

あったかい布団の中で目をとじながら、自分のためだけの物語を聞く。大人になった今はわかる、それがいかに奇跡のように訪れた時間か。
だから、○○ちゃんの冒険はきっと明日も続く。海の中も、古代の地球も、宇宙も舞台となるだろう。


「さて今日の○○ちゃんはねぇ・・・」