父の夢 2001/06/07UP

父が亡くなって、もう10年になる。
癌だった。

毎晩のように夢を見た。
父は元気だった頃と同じように出てくるので、
夢の中で私は、なあんだ、死んだなんて嘘だったんだと、ほっとし、
朝になって、ああっ夢だったと繰り返し繰り返し、思うことになった。

それが何日も続いた後、こんな夢をみた。
父は服を着ていなかった。
それを見て恥ずかしいとは思わなかった、毎日のように介護して
体を拭いたりしていたからだろう。

ただ、その日は元気な頃の父ではなく、沈んでいた。
父は言った。

苦しい辛い病気のあと、やっと死ねてほっとしていたのに、生き返ったら、
こんな風に裸のまま、しかも病気は治っていない。
生き返っても苦しいだけだ。ゆっくり死なせてくれないか。

私は、いいよ、死んでいて、と言ったと思う。

あとになって、こう考えた。
生き返って欲しいと切望するあまり、私は安らかに死んでいった父の魂を
揺り動かし、夢に登場させ、苦しめていたのかもしれないと。

それからずっと、父が生き返った夢は見ていない。