Uちゃんの冒険 2003/08/05UP

「第11夜」
「海だ」

 アザラシ君と会った場所から海までは、歩いて30分もかかりませんでした。
川は両側にぐっと広がって、もう流れていないかのようにゆったりとしています。

 何だか、不思議な匂い。
初めての、胸がいっぱいになる感じ。
「海だよ」
誰かがこう言ってから、Uちゃんはいつの間にか走っていました。
Uちゃんが見たのは、遠くの方まで光る波がゆれている、おだやかな海でした。
小さな波が足もとまで来たかと思うと、白い泡を残して戻っていきます。
聞こえるのは、波の起こすザザザーという小さな音だけ。

 Uちゃんは、しばらくぼーっと海を眺めていたようです。
カバさん達が波打ちぎわで遊び始めたのに、やっと気がつきました。
「これが海なの」
「そう、これが海。僕たちも、話に聞いただけで見た事はなかった。」
「そっか、カバさんは川の動物だもんね。」
「Uちゃんも初めてのようだけど、山にすんでいたのかい?」
「ううん、私の家は山を二つ越えたところ。」
「そりゃあ、遠くだな。海まで来て、これで冒険は終わりかな。
海が見たかったんだろ。目的地に着いたわけだ。」
「えっ。」

 Uちゃんは、どこへ行くのかなんて考えずに家を出てきたんです。
目的地なんてありませんでした。
でも、仲間達と一緒に行くからには、
これからどうするのかUちゃんが決めなければなりません。
「どこに行けばいいのかな」
Uちゃんも、仲間達も、ここから先に何があるのか知りませんでした。
「遠くが見えたらなぁ。」
Uちゃんは高い空を見上げて、言いました。

 その時です。
「見たいのかい?」
空の上から声がしました。