Uちゃんの冒険 2003/08/05UP

「第19夜」
「帰りたい」

 さて、みんなお腹がすいていたので、何はさておき、おにぎりを食べました。
U君もUちゃんと同じように、リュックに入れたおにぎりを持ってきていたのです。
お腹が一杯になると、まずUちゃんが話しました。
「これからどうする?」
「もちろん冒険を続けるのさ!」
とアリさん。
「どこへ?不思議な湖にはもう着いたのよ。」
「不思議な湖の不思議な魚をまず食べようよ。きっと、おいしいよ。」
これは、アザラシ君。
「僕は、Uちゃんの家に行きたいな。
まるで同じなんて、なんて不思議なんだろう。」
と言ったのは、U君でした。
「だから、Uちゃんは僕の家に行けばいい。入れかえっこだ。
お父さんたち、きっとびっくりするぞ。」
「いいね、おもしろそうだ。」

 お父さん・・・その言葉を聞いたUちゃんは、胸がちょっと痛くなりました。
お父さん、お母さん、どうしているだろう。だけど、みんな入れかえっこの話に夢中になっています。

 「ねぇ、僕は家に帰りたいんだけど。」
そう言ったのは、イモ虫さんでした。
「この桜の花を見ていたら、急がなくちゃって、体の中から声がするんだよ。
急がなきゃ、春はもう終わってしまうぞってね。」
「春が終わると、こまることがあるの?」
「わからない。でも急がないと、何か大切な物を無くしてしまいそうな、そんな気持ちなんだよ。」
風が吹きます。そのたびに、桜の花びらが舞って、みんなのまわりにふりました。
「ほら、もう桜も散っていく。僕は帰らなきゃ。」

 みんな、黙ってしまいました。
それぞれ、きっと同じ事を考えていたのでしょう。
「帰ろう!」
Uちゃんが大きな声で言いました。
「そうだね、帰り道にもきっと冒険が待ってるだろうし。」
U君も、もう入れかえっこの話はしませんでした。
「そうと決まったら、早いほうがいい。用意はいいかい?しゅっぱーつ!」
みんな、あわてて握手をしてU君たちを見送りました。

 姿が見えなくなった後、アリさんはこう言いました。
「顔はよく似ているけどさ、
U君とUちゃんはそっくり同じじゃないんだね。あんなにせっかちなんてね。
僕はUちゃんの方で良かったよ。」
「そう?
じゃ、こっちもそろそろ出発しようか。お腹一杯になった?」
「もう、はち切れそう。いいよ、出発しよう。」
湖から上がってきたカワウソさんたちは、
大きなお腹をかかえてゆっくりと歩き出しました。