Uちゃんの冒険 2003/08/10UP
 
「第21夜」
「さようなら」

 Uちゃんたちが山の向こう側に着くと、
カモメさんが悲しそうな顔をして待っていました。
「どうしたの、違ったの?」
「いや。僕が来たときには、もう沖の方へ行ってしまってたんだ。
アザラシ君のお母さんかどうかも、聞けないままだった。」
それを聞いたアザラシ君は、
「下ろして、Uちゃん。」
と言いました。
「どうするの。」
「探しに行く。」

 土の上では、アザラシ君はゆっくりしか歩けません。でも泳ぐために出来ている身体は、水の中を信じられないほどの速さで動き回れるのです。
「アザラシく〜ん!」
「もう聞こえないよ。あんなに遠くに行ってしまったもの。
ああ、もう見えなくなった。」
波の中の黒い頭を見ていたカワウソさんが言いました。

 「もし、さっきカモメさんが言っていたのがお母さんたちだったら、
もうこれっきり会えないな。」
「えっ。」
「だってアザラシ君たちは、これから暖かくなるから、寒い北の海へ旅をする所なんだよ。あの子はその途中でお母さんとはぐれたんだ。
だから、もう迷子にならないように一緒に行くんじゃないのかな。」
「もう会えないの。」
「そうかも、ね。」

 帰りの旅は仲間とさよならをしていくのだと、Uちゃんは気がつきました。
そうやって少しずつ減って、最後に一人になったUちゃんがうちに帰るのです。
「やだよ。帰りの旅ってちっとも楽しくない。」

 「そうかもしれない。
でもみんなは家に帰らなけりゃ。冒険しているのは楽しいけど、本当に生きていくのとは違うんだ。」
「本当って?Uちゃん、目は覚めてるよ。」
「そういう意味じゃないよ。
Uちゃんが生きていく場所はここじゃないってことさ。
不思議なことや、楽しいことばかり起こるわけじゃない。
そういう場所で、君はいろんなことを知って大きくなっていくんだよ。」
カワウソさんが言ったことを、
Uちゃんはすっかりわかったわけではありません。
まだ、ちょっとふくれっ面をしています。

 「Uちゃーん、カワウソさーん。アザラシ君だよー」
向こうでカモメさんが呼んでいます。
「お母さんとは違ったのかな。だったら、また旅が出来るね。」
「どうかな。」

 波打ちぎわにはアザラシ君と、もっと大きなアザラシがいました。
「お母さんだよ。僕をずっとさがしてくれてたんだって。」
「うちの子がお世話になりました。やっと無事で会えてほっとしています。」
「僕はお母さんたちと一緒にこれから北の海に行くんだ。
だから、さようならを言いに来たの。」
「行っちゃうの。」
「うん、みんなと冒険できてとっても楽しかったよ。
いつかUちゃんが海に来ることがあったら、また会おうね。」
「いつか?」
「うん、会うときまでに僕は海のことをもっと知っておくよ。
もっともっと大きくなってUちゃんを背に乗せて泳げるようになる。
そして、君の道案内ができるようになるんだ。」
「そうだね、また会うときまでに。きっとだよ。」
「約束するよ。」
Uちゃんはしっかりとアザラシ君と抱き合いました。
「また会うときまで。さようなら。」
「さようなら、元気でね。」

 アザラシ君は、お母さんと一緒に海に帰っていきました。
「さようなら〜」
Uちゃんは大きな声で言いながら、
「さようなら」がいつも寂しくなる言葉ではないことを知りました。