Uちゃんの冒険 2003/08/05UP

「第29夜」
「変わる」

 山の上では、心配なことが起きていました。
イモ虫さんが動かなくなってしまったのです。
みんなは声をかけましたが、何も答えません。
「病気だったのかな。だから、早く帰らなきゃって言ってたのかも。」
アリさんが泣きそうな顔で言います。

 空は暗くなり始めていました。
「イモ虫さんの色が変わっていく。」
草色だった体は、ゆっくりと茶色になっていきます。
「死んじゃうんじゃないよね。」
「そんな、まさかそんなことあるわけないよ。」
そう言ったカワウソさんも、胸がきりりと痛みます。
「早く来てくれ、Uちゃん。カバさん。」

 「おーい、カワウソさーん。どこだーい。」
カバさんの声です。やっと上ってきたのです。
「こっちだ、急いでくれ。イモ虫さんが。」
「イモ虫さんがどうしたの。」
Uちゃんが背中からすべりおりて、走ってきました。

 カワウソさんたちは、リュックサックをのぞき込んでいました。
Uちゃんは、そこに見ました。
すっかり茶色になってしまって、ちぢんだイモ虫さんを。
「どうしちゃったの。」
「わからない。君たちが行ってから、すぐに何も言わなくなったんだ。」
「イモ虫さん!」
もう暗くなってしまいましたが、みんなは寝ずにイモ虫さんにかわるがわる声をかけました。何かせずにはいられなかったのです。

 ゆっくりとお日様の光が山の上にとどき始めたとき、リュックの中を見たUちゃんは、そこにいるのがもうイモ虫さんではないことを知りました。
そこにいたのは、「さなぎ」だったのです。
「ああ、そうだったのね。みんな、イモ虫さんは病気じゃない。蝶になるのよ。」
「えっ、蝶だって。」

 ピシピシ。
小さな音がしました。
さなぎの背中がひび割れました。
「あっ、やっぱり病気じゃないの、体がこわれてる。」
「もう、始まったんだ。そこから、蝶が出てくるよ。」
ピシピシ。ゆっくりと背中のひびは大きくなります。
「がんばれ!」
思わずUちゃんは声をかけました。
「がんばれ」
アリさんも声をかけました。
そっと背中から、
「がんばれ!」
大きく割れた背中を押しながら、蝶の背中がまだちぢんだ羽根でくるまれて出てきました。二本のしょっかくが出てきます。そして大きな目とくるくる巻かれた口が。
細い足をふんばって、おなかも出てきました。

 「おめでとう、イモ虫さん。いや、もう蝶さんか。」
カワウソさんが言いました。
「ありがとう。心配させてごめん。」
「まだ羽根が伸びるまでしばらくかかるだろ、ゆっくりしていたらいい。Uちゃん、僕らも少し寝ようか。」
Uちゃんは、もういねむりを始めていました。
「安心したんだな。じゃ、お休み。」