Uちゃんの冒険 2004/01/08UP

「第31夜」
「家へ」

 隣の山との間まで来たとき、カモメさんが言いました。
「もう、僕も行くよ。海が遠くなった。」
「そう。ありがとう、カモメさんのおかげで、不思議な湖に行けたわ。」
「僕は教えただけだよ。君が行くと言って、みんなが賛成したのさ。
君はやっぱり隊長だったよ。」
「さようなら。」
カモメさんは、白い点になって飛んでいきました。

 Uちゃんは、山道を歩いていきます。
「ねぇ、アリさん。このへんだったでしょ。」
「そうだね、道のこっち側だったと思う。」
「行ってみようか。」
 道をはずれてしばらく行くと、白や黄色の小さな花が咲いている空き地が見えました。セミの声がやかましく聞こえます。
花の上には、あの蝶さんと同じ羽根の蝶たちがたくさん飛んでいました。
花にとまったかと思うと、また他の蝶とおしゃべりするように飛び回ります。
「ここが蝶さんのふるさとだね。」
「どこにいるのかな。」
「いっしょうけんめい、お嫁さんをさがしているのかな。」
「いそいでるんだね。」
「うん。」
声をかけるのをやめて道へ戻りました。

 しばらく歩くと、Uちゃんは気がつきました。
「ねぇ、ここがアリさんと初めて会ったところね。」
「そうだった、君がおにぎりをくれて。」
「もうずいぶん昔のことみたい。」
「おにぎりはもうなくなったの?」
「うん、なくなったら帰っておいでって、お母さんが言ってたとおりになった。」
「じゃあ、僕も仲間の所に帰るよ。さようなら。」
「さようなら。」

50匹のネズミさんたちはまだいっしょでした。
「僕らは旅好きのネズミさ。どこへでも行くよ。」
「じゃ、家に来て。」
「そりゃ、だめだ。」
「なんで。」
「知らないのかな。僕らは人間には嫌われてるんだよ。
君のお母さんが見たら、ひっくり返るよ。」
「だめなの。」
「そう寂しそうな顔しないで。また会えるよ、いつでもね。
また冒険に行くなら、ついていくからね。」
「さようなら。」

 なつかしい道でした。
どのくらい前にここをかけていったのでしょう。
Uちゃんはその時の自分がずっと小さかったような気がしていました。
たくさんの仲間と会って、たくさんの冒険をして。

 とうとう、家が見えるところまで来ました。Uちゃんは大きく深呼吸をして、言いました。
「ただいま〜!」

 そのとたん、家のドアがバン!と開きました。
お父さんとお母さんが飛び出してきて、Uちゃんの方にかけよりました。
「おかえり!」
「お父さん、お母さん、ただいま!」
二人にだきしめられて、Uちゃんはまるで赤ちゃんだったときのように、
安心して泣きました。